第1章 ~なぜ、育てたスタッフほど辞めていくのか?~
第1話 「もっと稼げる」が正義になる時代
第2話 委託型と教育型は“戦っている土俵”が違う
第3話 「教えても辞める」が起きる理由
第4話 「頑張って育てる」が、報われにくい時代
第5話 教育型サロンは、本当に時代遅れなのか?
美容業界には昔から、
「人を育てる文化」
がありました。
営業後のレッスン。
モデル練習。
技術指導。
接客指導。
時には人生相談まで。
先輩たちは、自分の時間を使いながら後輩を育ててきました。
そして、
「自分もそうしてもらったから」
という想いで、その文化は受け継がれてきたのです。
しかし今、多くの教育型サロンが苦しさを感じています。
なぜでしょうか。
それは、
「頑張って育てること」
と
「経営が成り立つこと」
が、以前ほど一致しなくなっているからです。
例えば、新人スタッフが入社したとします。
教育型サロンでは、すぐに売上を求めません。
まずは技術を学ぶ。
接客を学ぶ。
お客様との関わり方を学ぶ。
美容師としての土台を作る。
そのために、先輩たちは時間を使います。
店長も時間を使います。
オーナーも時間を使います。
つまり教育とは、 未来への投資なのです。
ところが近年、その投資の回収が難しくなっています。
ようやくスタイリストになった。
売上も上がってきた。
後輩も教えられるようになった。
そんなタイミングで、
「もっと条件の良い店があるので」
と言われてしまう。
すると教育にかけた時間やコストは、そのまま他社で活用されることになります。
もちろん、転職自体が悪いわけではありません。
働く場所を選ぶ権利は誰にでもあります。
ただ、経営という視点で見れば、
「育てるほど流出する」
ように感じてしまう構造があるのです。
さらに難しいのは、教育の成果が数字で見えにくいことです。
売上なら分かります。
利益も分かります。
しかし、
後輩を励ましたこと。
相談に乗ったこと。
お店の雰囲気を良くしたこと。
技術を教えたこと。
こうした価値は、数字には表れにくい。
だから教育に時間を使う人ほど、
「自分ばかり損をしている」
と感じてしまうことがあります。
実際には組織に大きく貢献しているのに、その実感を持ちにくいのです。
そしてもう一つ。
今は情報格差がほとんどありません。
SNSを見れば、全国の求人が分かります。
給与も休日も歩合も比較できます。
昔のように、
「この地域ではここしか知らない」
という時代ではありません。
つまり、スタッフが選択肢を持つ時代になったのです。
これは良いことでもあります。
働き方の自由が増えたからです。
しかしその一方で、教育型サロンにとっては難しい時代になりました。
だからこそ今、
「昔みたいに頑張れば何とかなる」
では解決できなくなっています。
人を育てることは大切。
でも、善意だけでは続かない。
教育文化も守りたい。
でも、経営も成り立たせなければならない。
その両立が求められているのです。
私は、人を育てること自体が間違っているとは思いません。
むしろ、これからの時代だからこそ必要だと思っています。
ただし、
「人を育てることが経営として成立する仕組み」
を作らなければ、教育型サロンは疲弊してしまいます。
頑張る人ほど苦しくなる。
教える人ほど損をする。
そんな組織では、教育文化は長続きしません。
だから今必要なのは、
「どうやって育てるか」
だけではなく、
「どうすれば育てることが報われる組織になるのか」
を考えることなのではないでしょうか。
【次回】
‣第1章 第5話 教育型サロンは、本当に時代遅れなのか?