2020年1月6日

『経済なき道徳』から脱却するソーシャルビジネス経営 第1話

第 1 章 道徳なき経済は罪悪であり 経済なき道徳は寝言である

第 1 話 僕とフレンチトーストと先生と。

今日もいつものカフェで、いつもの朝食を食べていらっしゃる。
椅子に何とか身体をねじ込んでいる感じで、ちょっと古い椅子なら
いつ壊れやしないかと不安になる。
以前ブランコの鉄のチェーンをちぎった事があるって言ってたのも、
あながち冗談じゃないのかも。 

右手には日経新聞、左手にはフレンチトースト。
食べるというより『フレンチトーストを飲む』という印象だ。

『大山君、大山君。ごめん、コーヒーのシロップを持ってきて
もらえないかな?』 
『あっ、はい!かしこまりました!』
いつも真壁先生は、出社前にオフィスの近くにあるカフェで
朝食を採っている。
僕は真壁先生の元でコンサルタントの見習いをしている、
大山 和彦、28 歳。
以前は全く違う畑の職種で営業をしていたけれど、ひょんなことが
きっかけで先生のところにお世話になる事に。

『はい、先生!お待たせしました。』 先生は躊躇いもなくシロップを
全てアイスコーヒーに放り込んで、一気に飲み干した。
『さぁ、行こうか。』
『はいっ!あっ、先生口の周りがフレンチトーストで真っ白です・・・。』

道中は先生から色々な情報を聴きだす絶好のチャンスだ。
『先生、今日の午前に訪問する“NPO 法人みんなの家”様ですが、
今日が初めてですよね?どんな経緯で お伺いする事になったんですか?』
『えぇ、代表の樋口さんって方は、いつもお世話になっている
川口さんの大学の後輩にあたるんだとか。』 
『川口さんって、NPO 法人チャレンジの代表でしたよね?
結構 NPO 業界って繋がり深いんですかね?』 
『せやね、情報交換程度の事は頻繁にしているらしいよ。』
『なぜご紹介いただいたんですか?』
『うん、樋口さんが起業してから 5 年ほど経つんだけど、
どうやら思う通りには事業運営がうまく行って いないらしく、
一度客観的に診てもらってはどうか?という川口さんからの
アドバイスらしい。』
『なるほど!どんなお仕事なんでしょう?』
『樋口さんは一人親家庭のお子さんの学習支援をしていて、
主に中学生と高校生向けの塾をしているらしい。
職員は 8 名ほどいて、塾の先生は大学生ボランティアやアルバイトに
お願いしていて、年商は 2800 万円程度なんだって。』

『へぇっ!職員が 8 名いて、年商が 2800 万円ならば
上手く行っている方ではないんですか?』
『確かに、年商は平均的だし、中央値を上回っているとは思えるけど
職員が 8 名ってのは多すぎるから、 もしかすると有給職員は
少ないのかもしれないね・・・。』
『そういうもんなんですね・・・。どこからそう思われるんですか?』
『ん?総生産性かな。8 人で 2800 万円って事は、一人当たり月に
 30 万円弱の売上高しか稼いでいない事になるやん?
塾という事は箱型ビジネスなので、何かよほどの特殊事情、例えば
親戚がお金持ちで家賃を 払わなくて良いとか、そういったものが
ないとちゃんと給料を支払っていたら法人が赤字になる計算にな
るからね。』
『なるほど!あれ?先生、でも職員さんは 8 名も所属しているって、
やっぱりちゃんとお給料ももらえているから
続いているって事じゃないんですか?』

『大山君、【経済なき道徳】って言葉、ご存知?』
『いえ!一切聞いたことありません!』 
『きっぱり言いすぎや。恐らく樋口さんともそんな話になると思うよ。』
『えっ!?今教えていただけないんですか!?』
『楽しみは、後にとっておいた方が面白いやろ。
さぁ、最寄り駅に着いたよ。』
『あっ!先生!ちょっと待ってくださいよ!
まだメモを取り終えていないんですから・・・。』